Metallica – “One” (1988)

名盤S

画像引用元:https://cdn.media.amplience.net/i/metallica/and-justice-for-all_cover

●作品情報:
形態:4thアルバム “…And Justice for All” 収録曲
ジャンル:スラッシュメタル


Metallica至高の名曲。

5th”Metallica”のレビューに入る、その前に。
今回はアルバムではなく、曲のレビューです。
1つの曲について1本の記事を書くのは、後にも先にもこれだけかもしれません。

本来ならば5thの記事を続けて書くところだったんですが、
やはりどうしてもこの曲だけは触れておきたい。


前回の3rd “Master of Puppets”の記事でも書いたように、
この曲の収録作である4th”…And Justice for All”はCliffの大作志向的な作曲スタイルを意識し過ぎて行き詰まりを見せていたと思います。

全体的に冗長さが一層顕著になる中、前作同様やはり何曲かは光る曲がありました。
#1″Blackened”と、そして#4″One”
どちらもスラッシュメタルの名曲ですが、
殊に”One”は単なるヘヴィメタルを超越した価値を持つ、Metallicaの最高傑作と言っても過言ではありません。


その事は何より、
この曲がヘヴィメタルの歴史上初めてグラミー賞を受賞したことに表れています。
この事実は非常に大きな意味を持ちます。
それは単にそれまでアンダーグラウンドだったヘヴィメタルがメインストリームへと押し上げられたということのみならず、
ヘヴィメタルという音楽が専門家を唸らせるほどの音楽的表現の高みへ達したことをも意味するからに他なりません。

作曲の背景

既にご存知の方には蛇足でしょうが、念のためこの曲が作られた背景を説明しましょう。


この曲は1971年公開の映画『ジョニーは戦場へ行った』(原題:Johnny Got His Gun)から着想を得て書かれています。上のMVに出てくる映像がその映画のものですね。
ちなみに映画は1938年発表の同名の小説を原作としています。

この映画は反戦映画として非常に有名です。
舞台は第一次世界大戦時のアメリカ。
徴兵によって戦場へ駆り出された主人公のジョーは敵の攻撃を受けた結果、
気付けば四肢を失った上、触覚を除く五感をすべて失った状態で病院のベッドに横たわっていた。

しかし恐ろしいことに、意識はある。
正に生ける屍と化したジョー。
たった1人で暗闇の中をさ迷い、僅かに動かせる頭でモールス信号を用い周囲に助けを求めようとするが…。


以上、大雑把なあらすじです。
戦争がもたらす悲惨さや絶望を強烈に訴える作品として、本作はカンヌ国際映画祭などで複数の賞を受賞しています。
僕も一度観たことがありますが、とにかく徹底的に救いが無い。
孤独と絶望がひたすらに支配する物語は、観ていて辛いものがありました。

ヘヴィメタルが巧みな芸術表現へと昇華された瞬間。

さて、映画の内容はこの辺りで止めにしておきましょう。
要はこの映画にインスパイアされ、
映画と同様の反戦的なメッセージ性を湛えた曲として作られたのが”One”、
という訳なのですが、これが見事と言う他ありません。

収録アルバムには冗長な曲が目立つものの、
この曲に関しては構成、リフ、歌詞、すべてが素晴らしい。
この曲を作る時だけ奇跡的に歯車が嚙み合わさったんでしょうか。


まずイントロのもの静かなクリーンギターからして既に、
他とは明らかに異質な曲であることが瞬時に分かります。
哀愁と言うよりはむしろ、虚無感や諦念を漂わせる音色は正に映画の通りの世界観。


その後バンドの演奏がおもむろに始まり、ジョーが置かれたむごたらしい様子を歌い上げる。
そして後半、パートが切り替わり演奏が徐々に激しさを増していく。

機関銃を思わせる演奏の中、
“Landmine, has taken my sight
(中略)
Taken my soul, left me with life in Hell”
とJamesの激したボーカルの後、最後までの2分間はバンドの演奏のみがひたすら続きます。

ここからが本当に圧巻。息を吞むような演奏とは正にこのこと。
歌詞こそ無いけれども、否、だからこそ、このパートこそが”One”を傑作たらしめていると思います。

一段とギアを上げた機関銃の如く激しくかつ無機質な演奏によって、
ただの生ける肉塊となり果ててもなお生かされている絶望感、
そして戦争の残酷さ・冷徹さが実に巧みに表現されています。

鬼気迫る演奏そのものによってそれを表現しているという点が、何より凄い。


これこそが、グラミーの審査員がこの曲を高く評価した理由でしょう。
行き場の無い怒りや絶望感が見事に表現されており、
尚且つその表現方法がヘヴィメタルという音楽である必然性が感じられる。
ポップスでもハードロックでも、他のどんなジャンルでもなく、
ヘヴィメタルの激しい演奏だからこそ表現できるものがあることを、この曲は示したんです。



ヘヴィメタルはそれまで決して日の目を浴びるジャンルではありませんでした。
しかしMetallicaは、ヘヴィメタルという音楽の持つ可能性を提示したのです。
ヘヴィメタルという音楽が、

これ程の芸術表現へと昇華し得る音楽であることを。
どれ程の衝撃をもってこの曲が世間に迎えられたのか、想像に難くありません。


本当に素晴らしい。何度聴いても、聴くたびに圧倒される。
Metallicaで一番好きな曲は?と訊かれたら僕は迷わずこの曲を挙げますね。

まとめ。

メタルを知らない人にこそぜひとも聴いて欲しい曲です。
本当に凄い。この曲だけは特別です。
ヘヴィメタルにおいてこれ程作曲もメッセージ性も優れた楽曲は他にないと言っても良いでしょう。

評価はアルバムの形に合わせて、名盤Sとしておきます。
わざわざ曲別の評価基準を設けるのも手間なので。

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