Afterbirth – “In But Not Of” (2023)

良盤S

画像引用元:https://afterbirthnydeathmetal.bandcamp.com/album/in-but-not-of

●作品情報:
形態:3rd フルアルバム
レーベル:Willowtip Records
ジャンル:ブルータルデスメタル / プログレッシブデスメタル
トラックリスト
1.”Tightening the Screws”
2.”Devils with Dead Eyes”
3.”Vomit on Humanity”
4.”Autoerotic Amputation”
5.”Vivisected Psychopomp”
6.”Hovering Human Head Drones”
7.”In But Not Of”
8.”Angels Feast on Flies”
9.”Time Enough Tomorrow”
10.”Death Invents Itself”
11.”Succumb to Life”

●個人的お気に入り度:
神盤/名盤S/名盤/良盤S/良盤/並盤/並盤以下


“The Shape of Slam to Come” = 「来るべきスラムデスの形」

今年のリリースの中でも特に面白味があったのが、このアルバム。
聴けば聴くほど面白い。僕は大好きです、これ。


まずAfterbirthとは何者か。
若手かと思いきや実は90年代初頭、つまりデスメタル黎明期に一度活動していたようで、その時はデモ音源のみのリリースに留まっていたようです。
しかし2010年代に入ってから活動を再開し、今作にて3枚目のフルレングスに至る模様。
普通だったら自然消滅しそうなものですが…メンバー間の交流がずっと続いていたんですかね?

90年代初頭の頃の様子は分からないですが(というか僕そもそもまだ生まれてない)
2020年リリースの前作“Four Dimensional Flesh”はマニアの間で話題になっていたと思います。
僕はその時彼らの存在は知っていたんですが、曲をちょっと聴いた程度で、今日に至るまで記憶の片隅に埋もれてしまっていました。

そして、それから3年後の今年。
Bandcampでふとこの新作を見かけた訳です。
「Afterbirth…ん?あ、あのバンドか!へー新作出したんか、どれどれ」

とりあえず聴いてみる。


…あれ?
この人達ってこんな感じだったっけ??


そう。なんか変わってる!!

前ちょろっと聴いた時は今よりもブルデスらしさがあった気がしたんですが、
今作では一層プログレッシブな方向に舵を切った印象です。


今作の特徴を簡潔に表すなら、
「プログレッシブでスペーシーなブルータルデスメタル」と言った所でしょうか。
前作を改めて聴いてみると、今作は前作を更に押し進めた作風のようですね。
前作の延長にあることは間違いないですが、大きな進化を遂げていると思います。

では、「プログレッシブでスペーシーなブルータルデスメタル」とはどういうことか。
まず「プログレッシブ」とは、曲の構成やリフを指してのこと。
後述のように確かにブルデス的なアンダーグラウンドっぽさも残ってはいるものの、
プログレらしく「洗練」されて聴きやすいサウンドになっています。
それが一際顕著なのが#7″In But Not Of”。この曲は最早メタルの範疇すら飛び出しているかもしれません。


そして「スペーシーなブルデス」とはこのバンドの最大の特徴と言っても過言ではなく、
浮遊感のあるサウンドとブルデスを融合させているという点。

この点は今作に限った話ではありませんが、これって「ありそうでなかった」サウンドなんですよね。
こういう実験的でプログレッシブなことをするデスメタルは大抵、メジャー感のあるサウンドに「洗練」されてしまうのが常です。
しかしながら、ガテラルVoに象徴されるように、彼らは未だアンダーグラウンドな香りを漂わせています。ここが中々他に見られない特徴なんですよ。

前述の通り彼らも「洗練化」を免れ得ている訳ではありません。音質もかなりクリアになっていますしね。
ただ少なくとも個人的には、今作の「洗練化」と「アンダーグラウンドらしさ」とのバランスは非常に絶妙だと思います。
既にかなり聴きやすくなっていますし、これ以上「洗練」されてしまうと(たとえばVoがグロウルになるとか)よくあるプログレデスに陳腐化してしまう気がします。このぐらいが彼らの個性もよく出ていると思いますね。



さて、本人達はこんなサウンドを“The Shape of Slam to Come” = 「来るべきスラムデスの形」と称しているようです。
これは非常に的を射た表現だと思います。
スラミングしているかと言うと少々疑問ですが、「アンダーグラウンドなブルデス」とすれば理解できます。
考えてみれば、ブルデスの中でも更にアンダーグラウンドな、ガテラルやピッグスクイールを用いるブルデスは、アンダーグラウンドであるが故にサウンドにあまり多様性が無かったと思います。
新たな試みに挑むバンドはアングラさから脱却して「洗練」されるか、あるいは彼らほど大胆な試みはしないかのどちらかだったのでは無いでしょうか。

しかしここに来て、彼らはそんなアングラなジャンルに新たな風を吹かそうとしている。
面白いじゃないですか。しかも完全なる若手ではなく、一度黎明期に活動していたバンドが新たなことを試みるっていう点が尚の事面白い。
いやあ凄く面白い。大好きです。お陰で凄い長々と語っちゃったよ。


まとめ。

面白い!面白さという点では今年一番かも。
現代アート的なアートワークも何だか今作のサウンドを象徴しているような気がします。
またプログレッシブとは言ったものの、1曲1曲はかなり短めで(アルバム全体で35分)聴きやすいのも今作の良さでしょう。

今作である程度サウンドを確立した感じがするので、次作でどうなるのか全く予想が付かないですね。更に面白い方向に進んでいくんだろうか。
一風変わったデスメタルを、あるいはプログレデスを聴きたい人には凄くお薦めです。



・お薦めの曲
2.”Devils with Dead Eyes”
上述の「プログレッシブでスペーシーなブルデス」という特徴が最もよく表れている曲です。
“The Shape of Slam to Come”とは正にこのこと。

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