Imperial Triumphant – “Spirit Of Ecstasy” (2022)

良盤S

画像引用元:https://www.facebook.com/photo.php?fbid=610495237113833&set=pb.100044600852067.-2207520000.&type=3&locale=ja_JP

●作品情報:
形態:5th フルアルバム
レーベル:Century Media
ジャンル:アヴァンギャルド
トラックリスト
1.”Chump Change”
2.”Metrovertigo”
3.”Tower of Glory, City of Shame”
4.”Merkurius Gilded”
5.”Death on a Highway”
6.”In the Pleasure of Their Company”
7.”Bezumnaya”
8.”Maximalist Scream”

●個人的お気に入り度:
神盤/名盤S/名盤/良盤S/良盤/並盤/並盤以下


注目のアヴァンギャルド・アクトによる最新作。

アメリカはNY発のアヴァンギャルド・メタル集団による一枚。


去年のリリースの中でも特に目立っていた作品です。
アヴァンギャルド系のジャンルでは今一番注目されているバンドではないでしょうか。

彼らは海外では既に3rd“Vile Luxury”から大きな注目を集めていたようですが、
ここ日本でも認知度が高まってきたのはやはり前作“Alphaville”からでしょう。
メタルとジャズを高い次元で融合させ歪な世界観を描き出す前作は各所で絶賛され、
色んなサイトの年間ベストにこぞって名を連ねることとなりました。

そんな前作から2年ぶりとなる今作。
今作でも上記のサウンドは健在であり、
相変わらず傑出した作品であることに疑いの余地は無いでしょう。



では一体どこがどのように素晴らしいのかを書き連ねていきたい…
訳ですが、
いやはやこれが中々に骨が折れる。

彼らの作品の魅力をどれ程理解出来ているか、正直僕はそんなに自信がありません。
ひょっとしたら、僕が感じているよりももっと奥の深い何かがあるのかもしれません。
その上で、僕が感じたままを可能な限り書いていきたいと思います。
今回は結構長めの記事になるかも。

プログレッシブ・メタルとしても一級品。

まずは一番分かりやすい部分、サウンドの表面的な特徴から触れていきましょう。
メタルとジャズを高次元で融合させたサウンドは相変わらず、とは先ほど言ったものの、
前作と比べると若干の変化が見られます。

端的に言えばその変化は、(メタルのリスナーにとっては)より聴きやすくなったという点でしょう。
特にアルバムの前半で顕著ですが、
前作よりも一層プログレッシブ・メタル的な趣が強くなりました。
複雑な演奏と曲構成は相変わらずなものの、全体的にメタルらしさが増したため、
「ちょっとジャズっぽいプログレメタル」としても普通に聴けると思います。
メタルのリスナーにとっては、と但し書きをしたのはそのためです。

またリフが幾分かメロディを帯びるようになったのも、聴きやすさの向上の一因でしょう。
Gorgutsの”Obscura”を思わせる癖のあるリフは変わらないものの、
今作では少しマイルドになった印象がします。どこかDeathspell Omegaっぽさがある気も。


彼らの作品に関しては、
普段メタルを聴く時に「このリフ/メロディ/構成が良い」と言うように、
個々の技巧的な面を味わう聴き方では真価を理解出来ないと僕は思っています。
しかし今作はそのような聴き方であっても、
表現を変えれば「プログレッシブ・メタル」としても一級品だと思います。


今作が表現するものとは?

さて、
個々の技巧的な面だけではこの作品の真価を理解出来ないと思う、と言いました。
彼らの真価を知る手掛かりは、
「サウンド全体を通して何を表現しているのか?」を意識しつつ聴くことにあると思います。
ここからはその側面について語っていきます。


まず、アルバム名の“Spirit of Ecstasy”とは一体何でしょう?
直訳すれば「恍惚とした心地」といった表現になるのでしょうが、
これはかの有名な高級車メーカー、ロールスロイスを象徴するマスコットの名前から取ったのだそう。

Spirit Of Ecstasy
画像引用元:
https://jp.hypebeast.com/files/2022/02/rolls-royce-new-spirit-of-ecstacy-redesign-news-001-e1644289099918.jpg


高級車とメタルに一体何の関係が?
それはメンバー自身が詳しく語ってくれています。
これ以降は以下のKerrang!の記事を参考にしながら書いていこうと思います。
英語の記事ですが、中々興味深いので時間があれば一読をお薦めします。
https://www.kerrang.com/this-is-challenging-music-but-there-is-reward-in-that-how-imperial-triumphant-tapped-into-the-spirit-of-ecstasy


メンバーのZacharyが記事で語っている内容を要約すると、

「ロールスロイスのような高級ブランドの製品は細部までこだわり抜かれており、
単に機能に優れるのみならず『最高に贅沢で素晴らしい体験』を提供している。
この考え方をデスメタルの作曲にも応用し、どの瞬間にも細心の注意を払ったアルバムを作った。」


といった感じ。

注意深く読んだ方ならお分かりかと思いますが、
同じように細部までこだわったとは言っているものの、
「今作がリスナーに何を提供するのか?(=コンセプトは何か?)」は明言していません。
実際、記事の他の箇所で
「今作が何を表現しているかはリスナーの解釈に任せる」といったことを語っています。



そういう事なら、僕の感じたことを堂々と語らせてもらいましょう笑
僕は今作のコンセプトは、「退廃的な陶酔感」だと思っています。

“Spirit of Ecstasy”(恍惚とした心地)とは実際その通りでしょう。
ロールスロイスに乗った事のある人はそう多くないでしょうが(僕も無いです)
服や時計、食事や音響機器なり何かしらの「贅沢品」は誰しも経験したことがあるでしょう。
そう、その時の感覚です。

ちょっと高級な服を身に付けたり、高級な食事をするなど、
高級品を味わった時のあの陶酔的な感覚。
今作は全体としてそういった感覚を表現しているのではないでしょうか。

ブルジョワ的な感覚、とも言えるかもしれません。
あるいは先ほどの記事でインタビュアーが「(画家の)クリムトの絵のようだ」と言っていますが、
これが中々的を射ています。
金蘭の如き絢爛さと神秘的な雰囲気を醸し出す点は、正に今作にも通じるものがあります。


しかしながら、
ロールスロイスのような高級ブランドであれば素直にその心地を味わえるのでしょうが、
今作で感じられる”Ecstasy”はもっと退廃的で歪んでいます。
この歪んだ部分はやはりデス/ブラックメタル的な要素が表現しているのでしょう。

そしてこの「退廃的な陶酔感」というコンセプトは、歌詞の内容も踏まえてより正確に言うなら
(資本主義の下での)飽くなき欲望の追求による退廃」ではないかと思います。
#3″Tower of Glory, City of Shame”なんかは結構分かりやすい気がしますね。



何だか小難しい話になってきたのでこれ以上深掘りはしませんが、
てか「難しいこと語って自己陶酔に陥ってるんじゃないの、まさにspirit of ecstasyだなHAHA!」とか言われたらぐうの音も出ない
最後に曲ごとの大まかな印象を述べていきます。


#1″Chump Change”から#5″Death on a Highway”までは、
前述の通りプログレメタルとしても楽しめるし、「退廃的な陶酔感」が如実に表れています。
陶酔的な感覚がある一方で、その裏には虚無感が潜んでいる気がしますね。

#6″In The Pleasure of Their Company”はアルバムにおける間奏のような曲。ほぼジャズ。
NYという大都市でせわしなく人や物が行き交う様子を表現しているんじゃないかな。

そして最後の#7″Bezumnaya”#8″Maximalist Scream”は、これまでと少し毛色が異なります。
“Bezumnaya”とはロシア語で“crazy”を意味するそうですが、
確かに聴いていると本当に頭がおかしくなってきそう。
これまでの曲で表現された「退廃的な陶酔感」から更に進んで、
カルト宗教の信者の如く異常な熱に浮かされて躍起になっているような感覚を覚えます。
その狂気とすら言える感覚を#8″Maximalist Scream”まで引き継ぎ、アルバムは幕を閉じます。

まとめ。

こんな風に長々と書いていると、何だか取っつきづらさを覚えるかもしれません。
しかし今作は案外、そこまで難解ではないと思います。
割と直感的に楽しめると思うので、そんなに深く考えて聴かなくても大丈夫じゃないかと。
てか僕が小難しい話にしてるだけかもしれないですね、すまぬ。

とは言え、ヘッドバンキングして暴れ回るような作品ではないことは確かです。
むしろ落ち着いてじっくりと耳を傾けて味わいを深めていくような作品でしょう。
プログレッシブメタルとかアヴァンギャルド系が好きな人にはお薦めできると思います。
僕は今作、結構愛聴してます!聴けば聴くほど味が出てきますよ。



・お薦めの曲
#3.”Tower of Glory, City of Shame”
プログレとしてもかなりの域に達しているんじゃないでしょうか。
最後のテレビのチャンネルを切り替えていくような怒涛の展開は圧巻。
どうやったらこんなの思い付くんだろ。

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